その43.オバサン

先日、テレビの某番組で、大阪の街で中年の男を「おっちゃん」と呼ぶのはいいが、「おっさん」と呼ぶと怒られるよ、などと言っていた。考えてみると、それは広島でも同じことかもしれない。道を歩いていて、「そこのおっさん」などと声をかけたら、けんかを売ってるも同然。無視されれば運のいい方で、もしかしたら「誰に向かってものを言うとるんじゃい!」と怒鳴りつけられるかもしれない。このコラムの題名の「おっさんの○○」も多分に自虐的な意味合いがあり、「どうせ、わしはおっさんよ」という居直りでつけた題名である。自分で名乗ることはあっても、他人には言われたくない言葉なのだ。大阪では「オッチャン」がいいようだが、広島では「オジサン」というくらいが無難かもしれない。。
男性の「オジサン」に対して、女性を呼ぶときの「オバサン」という言葉には、もっと問題がありそうである。これはめったなことでは、女性の呼びかけに使用しないほうがいい。ましてや「オバン」などもってのほかである。少年の頃に、女性にものを尋ねる時にうっかり「オバサン」と呼びかけてしまったことがある。3人位の女性グループであったが、今思うに20代前後のうら若き女性であったと思う。「オバサンー?」と露骨に嫌な顔をされ、彼女たちに取り囲まれるようにして睨みつけられたという、「恐ろしい記憶」がある。子供でなかったら、「誰がオバサンよ!」と怒鳴りつけられたであろう。その時の私は「オバサン」という言葉以外に、知らない女性を呼びかける言葉を知らなかっただけなのだが・・・。いまから50年も昔の話であるが、いつの時代も「オバサン」という呼びかけは禁句なのだ。
毎年2月の終わりに、当地では「花の祭典」という催しがある。広島の花き業界を挙げてのイベントであるが、最終日には、会場に展示した花を、一般来場者を相手にセリにかける。(今年は会場変更のため中止)安い花を目当ての来場者は、ほとんどが「オバサン」である。毎回、大盛況となる恒例のオークションであるが、素人相手のセリであるから、その場で花を渡して、現金をもらう。その前にセリをする者はセリ落とした人間を指定しなくてはならない。「後の人」「こっちの女性」ですむ場合はいい。何人もが一斉に手をあげたらどうする?彼らは「前のオバサンが早い!」などとは間違っても言わない。「そっちの赤い服のオカアサン」「今度はこっちのオカアサンね」などとやっている。なるほど、これならオバサン達も嫌な顔をしない。少し若く見える女性だと「そっちのベッピンのオネエサン」となる。多少無理をしていると思っても、彼女はニッコリとして花を受け取る。「オカアサン」「オネエサン」という呼びかけにも問題はあるが、誰からも文句がでないのだから、これでいいのかもしれない

「どういうても、花の世界はオバサンでもっとるのは間違いないんじゃけえ、わしらも呼び方にゃあ気をつけんといけんよのう」