その40.花の心

花は植物である。植物には動物のように痛みや喜びの機能はないから、愛情や怒りの感情をぶつけても、何の意味もないに違いない。多くの人は植物についてそう思っているし、私自身もそう信じてきた。しかし、植物に対する世間一般のそのような「常識」は、根本的にまちがっているかもしれない、もしかしたら、植物には感情や心があるのではないか一そんな不思議な「夢」を抱かせる話を聞く機会があった。

3月の初め、市場関係の会合の、講演会で聞いた話しである。それは、60年代の米国において報告されたデータである。まず、植物を「うそ発見機」にかけて、その反応をチェックした。ドラセナを使い、電流を通して実験したら、意外な結果が出た。植物に危害を加えようとしている人間が近づいた時と、そうでない人間の時とで全く違った反応を示したのである。本気でやろうとしているかどうかさえも、わかっているような反応が出た。(人間の心がわかるのか?)次に、大豆とトウモロコシに音楽を聴かせると収穫量が20%も増えた。カボチャにクラシックを聞かせるとスピーカーの方にツルが伸び、ロックをかけるとツルが逃げるように伸びた。(植物は音楽に好みがある?)さらに、植物には光合成が必要だからというので、24時間明るい所に置いた。すると、逆に育ちが悪くなり、8時間ほど暗くすると、良く成長し始めた。(人間と同じく睡眠が必要なのか?)

こんな話を聞いたあとで、帰宅後に、いつものように温室のかたづけをしていた私は、ゴミ焼き場のそばのシンビの処分株の山に目がいった。枯れて茶色になった株の中に、埋もれるように一つだけ緑の葉が見えた。取り上げて見ると、葉が生きているだけでなく、小さな花芽まで付けている。「何というヤツや!」わたしは思わずつぶやいた。こいつは、鉢を抜かれ、外に放り出された状態でこの冬をすごしたのである。それでも枯れなかっただけでなく、花まで付けているのだ。人間で言えば、雪山で遭難して絶望視されていた人が、奇跡の生還をした、という感じだろうか。私は、さっそく鉢に植えて、ハウスの中にとりこんでやった。その時、「ひどいことを、しやがってー」とぶつぶつ文句を言っていたような・・・・・。

洋ラン栽培の生産者に、「いいものを作るには、葉と葉が触れないくらい、間隔を取って置いてやるといいですよ」と聞いたことがある。サボテンの大型生産者に「植物にストレスを与えないで作るために、立派な温室が必要なんです」とも聞いた。植物に、人間のような心があるか否かは別にして、花だって狭い場所に押し込まれるのは嫌だし、広くて明るい家に住みたいというのは、確かのようだ。ところで、奇跡の生還を果たしたシンビだが、あれから1ヶ月余りを経て、短いながらも、ピンクの花を開花させようとしている。

「花をいじめたら、ええものは出来んいうことよ。わしら市場の者も、あんまり花を粗末にせんように、商売をせにゃあいけんのう」